働き方から、ワークプレイスを考える。

特集記事

働き方変革がもたらすオフィスワーカー選別の波(1)
林 展宏

コロナの収束が未だ不透明の中、企業は緊急対応として実施した在宅勤務を今後どうしていくのか選択を迫られています。リモートワークに対するポリシーのない企業には、緊急事態宣言明けになし崩し的に出社する傾向が見られる一方、これを機に本格的に働き方変革に取り組もうとする企業もあります。

リモートワークは今後継続すべきか?

コロナ禍における現在の在宅勤務は狭い意味でのリモートワークであり、本来は、場所や時間を問わず柔軟に働くことができる環境が理想だと思います。
しかしながら、現実的には「サボって働かないのではないか」という社員を性悪説でとらえる考え方や「顔を見ないとマネジメントできない」という昭和的な体質が強い企業が依然として存在するのも事実です。
私が関わっている企業で、社員に在宅勤務に関するアンケートを行ったところ「生産性が上がった」「やや上がった」と回答した社員が約7割に達していました。社員側のこの声だけ取ってみても、リモートワークを取り入れた働き方変革に舵を切っていく価値は充分あると思います。
さらにもう一つ、今の状況から見えてきた新たな気づきがあります。それは、外部とのコミュニケーションのハードルが下がったということです。コロナ前は、外部の人と会うためには、面談の場所や時間の調整をし、かつ遠隔の場合は移動に何時間もかける必要があるなど、コミュニケーションのハードルが実は高く、まして、複数の方と同時にミーティングしたい場合には、更に難易度は上がります。

ところがリモート会議が定着してきた今は、遠隔地にいる方であろうが、複数であろうが、コミュニケーションの場を設定することは以前よりはるかにやりやすくなったと言えるでしょう。
このことは、この連載の最後で書かせていただく雇用の多様化につながっていく重要なポイントだと思っています。

リモートワークを積極的に導入するか否かは、会社にこなくても仕事が回ることに気がついてしまった今、生産性や成果にこだわる企業ほどその取り組みを加速させていき、その流れはグローバルの潮流とともに広がっていくと考えられます。

働き方変革が企業にもたらす影響

こうした働き方が変化していく環境の中で、企業には、組織を運営していく上での様々な既成概念を大きく変えていくことが求められていくと思います。
例えば、在宅勤務にとどまらないリモートワークの概念、仕事をする場であったオフィスのコンセプト、コミュニケーションのあり方、そして社員をどう評価していくのか?等、これまでとは全く別のやり方や考え方に舵を切っていくことが必要になってきます。
つまり、働き方変革は、単に在宅勤務を取り入れておしまいではなく、そのことが影響を及ぼすさまざまな社内のルールや仕組みを見直していくことが不可欠となります。

オフィスワーカー選別の時代へ

また在宅勤務は、働く人々(ここでは、会社に出勤してデスクで仕事をする人の意味で「オフィスワーカー」と呼ぶこととします)に「満員電車通勤のストレスからの解放」「プライベートとの両立」など、プラスの効果をもたらしました。
その一方で仕事の成果が浮き彫りになり、顔を突き合わせて仕事をしていた時にはなんとなくオブラートに包まれていた「できる人」と「できない人」の差が徐々に鮮明になってくるという現象が起き始めています。

こうした状況が、働き方変革と相まった時に、企業と社員の関係性にも変化をもたらし、オフィスワーカーにとっては厳しい「選別の時代」に入っていくと思っています。
今回の連載では、働き方変革の流れの中で、組織の中で何がどう変化しその変化にどのように対応していくべきか?
最終的にオフィスワーカーにどういう影響をもたらすことになるのか?
そして、オフィスワーカーは来るべき「選別の時代」にどう備えるべきか?
といったことについて以下の視点で紐解いていきたいと思います。

1

働き方の多様性の本質的意味

在宅勤務にとどまらないリモートワークがもたらす会社とオフィスワーカーの関係性の変化とは

2

働き方変革の時代におけるオフィスの役割

オフィスの新しいコンセプト=「仕事をする場から新しいものを共創し創造するための場」を実現するオフィスのあり方とは

3

多様な働き方を支えるコミュニケーションの重要性

日常接することが激減する環境での上司・部下、部門間、仲間、とのコミュニケーションのあり方とは

4

多様な働き方の下での人事評価とは

普段、仕事で顔を合わせない状況の下での人事評価のあり方とは
ジョブ型雇用は有効な解決策になりうるのか

5

来るべきオフィスワーカー選別時代にどう備えるべきか

雇用形態が多様化していく流れの中で、オフィスワーカーは厳しい選別の時代を迎えることになっていくと思われ、それにどう備えるべきか

コロナ禍の中、そしてafterコロナにおいて、働き方変革にどう向き合うかは企業にとって極めて重要なテーマであり、同時にオフィスワーカーにとっても自身にどういう影響をもたらすかをしっかりと考えるべきテーマだと思います。

林 展宏 (はやし のぶひろ)

2005年ソフトバンクテレコム 執行役員人事本部長として、ソフトバンクの通信3社の人事制度統合を進めるなど、事業会社の人事責任者として多くの改革を推進した後、2008年三菱商事グループのビジネスコンサルタント会社、シグマクシスの立ち上げにパートナー兼人事ダイレクターとして参画。人事コンサルチームの統括し、数多くの企業を人事プロジェクトで支援する。
その後、2015年にクックパッド株式会社執行役(人事担当)として、再度事業会社の経営に参画し、以降2017年株式会社オウチーノ取締役、2018年株式会社くふうカンパニー取締役とIT関連企業の経営に関わる一方、2016年に自身の人事コンサルティング会社「HCMラボ」を設立し、現在は、くふうカンパニー顧問など、多くの企業のアドバイザーとして人事領域を支援している。