時代とともに変化するオフィス環境。働き方に求められる多様性。
企業価値を高めるために必要な仕組みや、社会課題となっているテーマにフォーカスし、ご紹介します。
調査によると、日本の有給休暇の取得率は他国に比べて著しく低く、多くの人が有給休暇の取得に罪悪感を抱えているのだとか。「日本に必要なのは、『働き方改革』ではなく『休み方改革』だ」という声も聞かれるなか、新しい働き方・休み方を実現する「ワーケーション」が国内にも広がりつつあります。仕事に支障をきたさず、しっかり休んでリフレッシュできるワーケーションの導入事例を紹介するとともに、未来のオフィスのあり方について考えます。
仕事とプライベートの調和を図る「ワーク・ライフ・バランス」や、仕事も広く生活の一部と考える「ワーク・アズ・ライフ」に続いて注目されているのが、「ワーケーション」です。これは、「ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」を組み合わせた造語。例えば、リゾートや温泉地などの休暇先で家族と一緒にバカンスを楽しみながら、その合間に仕事をするような時間の過ごし方をさします。ワークとライフの垣根を低くし、相互のシナジーを高めていこうという考え方の延長線上にある概念です。ワーケーションは2000年頃にアメリカで生まれたといわれており、IT技術の進化とそれに伴うリモートワークの普及が後押しとなり、世界でこの概念を取り入れる動きが広がっています。
最近では、「働き方改革」ではなく「休み方改革」の重要性も指摘されています。日本では、「仕事に穴が開いてしまうから」「同僚に迷惑をかけるから」といって、有給休暇をほとんど消化しない傾向があります。そうしたなか、休暇先で仕事をした分が労働時間として認められるワーケーション制度が確立されれば、休暇を取ることが当たり前の文化になり、しっかりリフレッシュして生産性を高めることにもつながるのではないでしょうか。
もともとワーケーションは、時間の使い方に裁量があり、仕事をする場所にもとらわれないフリーランスなどが始めたもの。しかし近年では、企業が制度としてワーケーションを取り入れるケースも見られます。あるIT系ベンチャーでは、リモートワークを常時できる仕組みを整えており、東南アジアを周遊しながら働く社員やオーストラリア横断の旅をしながら仕事を続けている社員がいるといいます。中小のIT系企業はワーカーの労務管理がしやすく、リモートワークの仕組みを用意しやすいという特徴から、ワーケーション導入の障壁が比較的低いといえますが、大企業にも、この制度を導入する動きが広がりつつあります。
国内でワーケーションの認知度を高めたのが日本航空(JAL)です。2018年から夏季休暇とテレワークを組み合わせ、海外旅行中でも仕事ができる「ワーケーション制度」を導入しました。7〜8月のうち最大5日間のワーケーションを認める制度で、休暇先での始業・就業を上長に報告すれば出勤日として扱うというもの。本来の夏季休暇(土日含め1週間程度)や有給休暇に5日間のワーケーションを組み合わせて、海外旅行へ行くなど、たっぷり休暇を楽しめるようになったといいます。また、三菱UFJ銀行は軽井沢の自社保養所内にITオフィスを新設し、2019年の7月からワーケーションの取り組みを始めました。軽井沢の自然のなかでリフレッシュしながら働くことができるようになり、社員からも好評のようです。
ワーケーション導入にあたっては、社内の理解促進とともに、リモートワークを可能にするシステム面、ルールなどの環境整備が不可欠です。リゾート地では「ワーケーション向け」を謳う施設も登場しており、そうした施設の利用を福利厚生のメニューに組み込むことも「ワーケーション」をスムーズに導入する一つの方法といえます。ただし、自宅などで行うテレワークより、旅先で行うワーケーションは、なにかと誘惑が多いもの。いつもと同じ生産性を発揮するには、高度なセルフ・マネジメント術が必要となるかもしれませんし、そのためのワーカーのケアも企業には求められそうです。
今後、ワーケーションのような働き方が広まると、仕事とプライベートの間の境界線はさらに曖昧になっていくことが予想されます。オフィスで仕事をする必要がなくなったとき、オフィスのあり方はどのように変化していくのでしょうか。近年、注目されているのが「アクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)」という概念です。ABWとは、やるべき仕事に対して、最も効率のいい時間・場所を自分で選択できる働き方をさします。この選択肢は、社内だけでなく外にも及びます。好きな時に、社内の好きなスペースで、自宅で、カフェで、一番はかどる時間と場所を選ぶことで、生産性の向上が期待できるというわけです。でも、そうなるとオフィスには社員全員分の席を用意する必要はなくなり、将来的にはオフィスそのものが不要になる可能性も考えられます。
そのような流れに反して、"オフィス回帰"の傾向も見られます。例えばアメリカのYahoo!では2013年に、それまで設けていたリモートワーク制度を廃止し、ワーカーがオフィスに集まって仕事をできるようにしました。その理由は、「人は1人でいると生産性が上がるが、集まった時のほうがイノベーティブになるから」だといいます。
社員それぞれが、オフィスの"外"に働きやすい環境を探し求めるのではなく、働きやすいと思えるさまざまな環境を全部、オフィス内に用意する「ABW型オフィス」を構築する企業も出てきました。ABW型オフィスはフリーアドレスに似ているともいえますが、より働き方やモードの多様性に合わせた環境のバリエーションをオフィス内で提供するものです。
今後は、このようなオフィスの「中」で働き方の自由度を高める動きと、ワーケーションのようなオフィスの「外」に働きやすい環境を求める動きが、揺り戻しを重ねながら、組み合わさっていくのかもしれません。その時々のワークスタイルの進化によって生じるさまざまな課題を解決するための「付加価値の高いオフィス」のあり方を常に模索し、ワークプレイスを柔軟に変化させていくことが、ますます重要になってくるといえそうです。
「旅先にまで仕事を持ち込むのはちょっと…」。私はワーケーションの概念を初めて知ったとき、正直、抵抗感を覚えました。でも、本コラムでも紹介した、企業に所属しつつ、海外を周遊しながら働くワーカーの事例に触れて、「そんな自由な働き方があるのか」と目からウロコ。自分が働き方や休み方の固定観念にまだまだ縛られていることに気付かされました。
ワークとライフの境界があいまいになり、オフィスに付加価値が求められる時代。当社の本社がある「渋谷ソラスタ」でも、チームワークを大切にしつつ、働く場所を選べる「グループABW」という仕組みを導入しています。その日の業務に合わせて、ブレストブースや集中ブース、ファミレスブース(画像上)、さらにはフィットネスブース(画像下)まで、多彩な選択肢からワークプレイスを選べる一方で、執務スペースは部署ごとのフリーアドレス制を採用し、コミュニケーションも取りやすいのが特徴です。
オフィスの新しいカタチを考えながら、休み方についても自由な発想で捉えることの大切さを実感したところです。