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ワークスタイルに関するトレンド紹介記事
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時代とともに変化するオフィス環境。働き方に求められる多様性。
企業価値を高めるために必要な仕組みや、社会課題となっているテーマにフォーカスし、ご紹介します。

個人ワークスタイル

ワーク・ファミリー・エンリッチメント

「公私混同」がネガティブな言葉であることからもわかる通り、「仕事とプライベートは明確に切り分けるべきもの」という考え方が今までは主流でした。しかし近年、両者の関係性が見直されています。特に注目されているのが、片方の満足感がもう一方に良いフィードバックをもたらす「ワーク・ファミリー・エンリッチメント」の効果。このメカニズムを紐解きながら、ワークとライフを互いにポジティブに作用させるオフィス改革の事例を紹介します。

ワークとライフは対立関係にない。
「働き方改革」で見過ごされている新たな視点。

ワーク・ライフ・バランスという言葉は日本でも定着し、今や当たり前に使われるようになりました。この考え方の根底には、ワーク(仕事)とライフ(生活)は別物であり、対立するものという見方がありました。例えば、「働きすぎると、心身に悪影響を及ぼし、生活の質を落としてしまう」「プライベートを重視し過ぎると、仕事が疎かになる」といった具合です。特に、長時間労働の傾向が強い日本では、ワークとライフの量的・時間的な面に着目し、残業時間の抑制や年次有給取得の義務化など、「働き過ぎない」ためのさまざまな施策が進められてきました。

しかし近年、ワークとライフは対立するものではなく、両者は相互に作用して質を高めあう相乗効果があるという、ポジティブな側面にフォーカスした研究が進んでいます。そのなかで明らかになってきたのが、仕事と家庭生活、どちらか一方の役割における経験が、もう一方の役割における経験の質を高めるという、「ワーク・ファミリー・エンリッチメント」の効果です。ライフのなかでも大きな部分を占める「ファミリー(家庭生活)」に着目し、ワークとの間にポジティブな関係が見いだされるようになっています。

家庭で身についたスキルが仕事にも生きる!
仕事と家庭生活が互いに及ぼすポジティブな影響。

仕事と家庭生活が相互に影響を与えあうケースには、4つのパターンがあります。「仕事が忙しいせいで家族と過ごす時間が減る」「家事・育児に忙しく仕事への意欲が下がる」といったネガティブな2パターン。それから、「仕事で獲得した能力を家庭でも活かせる」「家族と楽しい時間を過ごすと仕事も頑張ろうという気持ちになる」というポジティブな2パターンです。例えば、「仕事で身につけた問題解決能力が、子育てにも役立つ」、あるいは「子育てを経験したことで、部下に対して寛容になることができ、職場の人間関係がよくなる」というケースを想定すると、ワークがファミリーを、ファミリーがワークを「エンリッチする(豊かにする)」イメージがわくのではないでしょうか。

この研究において、仕事から家庭へ、家庭から仕事へ、それぞれ及ぼす影響のことを「スピルオーバー(流れ出る)」といい、なかでもプラスに作用するものは「ポジティブ・スピルオーバー」と呼ばれています。例えば、仕事と家庭のそれぞれで「スキル・視野の広がり」や「良い気分」を得られるでしょう。また、給料をもらったり、目標を達成したりすることを通じて、仕事では「金銭的・心理的資源」の獲得が可能です。家事や育児などを同時並行でこなす必要のある家庭では、「能率」が高まるかもしれません。そうした片方の効果が、仕事への満足や組織へのコミットメント、心理的ウェル・ビーイング、あるいは家庭生活への満足につながる、といったことが研究からわかっています。そしてこの効果は、個人にとどまらず、組織にも広がるといわれています。

マイクロソフト、楽天からベンチャーまで。
ワーク・ファミリー・エンリッチメントを促す施策が広がる。

ポジティブ・スピルオーバーを起こすためには、仕事の自律性や裁量が与えられていたり、業務を通じて多様なスキルが得られたりする環境が必要といわれています。それ以外にも、ワーカー自身が新しい経験に対してオープンであること、上司、同僚、家族、組織などの周囲からのサポートも重要です。なかでも、鍵を握っているのが、部下の家族を支援しようとする上司の行動・姿勢だということは、多くの研究結果によって示されています。ワーカーが仕事に充実感を持って取り組めるようにする、新しい経験を促せるのは、ほかならぬ「上司」だからです。さらに、上司自身がロールモデルになることも期待されています。

また、企業が組織として公式に、家庭生活の充実を支援する環境を整えることも重要だといわれています。その一環として、社員が家族を会社に招く「ファミリーデー」を設ける動きが盛んになりつつあり、マイクロソフトや楽天をはじめ、外資・日系、業界を問わず、さまざまな企業に広がっています。ファミリーデーには、家族が仕事への理解を深めることで家庭でのコミュニケーションが向上する、ワーカー自身がモチベーションを高める、といったメリットがあります。また、ワーカー同士がお互いの家族を知ることで、家庭の事情で仕事を休むときなどにも快くフォローしあえる関係をもたらします。

オフィスの隣にプールやサウナ!?
ワークとライフの垣根をなくす新しいオフィスのあり方。

ワーク・ファミリー・エンリッチメントのように、仕事と家庭生活のポジティブな関係が注目されるほどに、ワークとライフは別物と考えるのではなく、ワークはライフの一部であると捉える人が増えてきているようです。

そのため、従来、プライベートな時間にしていたことを、仕事の合間にできるようにしたオフィスが増えています。例えば、オフィスにキッズスペースを設置して子どもを連れての出社を認めている会社があります。企業内保育所ではなく、親が働いている隣で子どもたちが遊んでいるのです。また、ペット専用スペースをオフィスに設置して、ペット同伴での出社を可能にしている会社もあります。岐阜に本社を置くある部品メーカーでは、広大な敷地内にフィットネスやプール、サウナ、ジャグジー、美術館などを用意し、休日にはそれらの施設を社員と家族が一緒に利用できるようにしているのだとか。

「リラックスしているときほど仕事のアイデアが浮かぶ」といったことは、昔からよくいわれてきました。仕事とプライベートはきっちり切り分けられるものではなく、相互に入り組んでポジティブな影響を与えあうものなのでしょう。これまで、「オフィスは仕事をする場所、プライベートは持ち込まない」のが常識でした。今後はそうした固定観念にとらわれず、ワークとライフの垣根を精神的にも物理的にも低くし、ポジティブな影響を与えあうことで、仕事と家庭生活、そして人生を豊かにするという考え方が企業内にも取り入れられていくのではないでしょうか。

編集後記 ~ たすきをつないで、家族と職場もつなぐ ~

東急不動産ホールディングスグループには2010年から続く、「グループ駅伝大会」という恒例イベントがあります。グループ内のコミュニケーション活性化を目的に始まったイベントで、各社の従業員が参加し、毎年けっこう盛り上がっています。

私も昨年、その駅伝大会に初参加!応援のため、子どもたちも会場にきてくれたのですが、同じく応援に駆けつけてくれた上司や同僚たちにチヤホヤされて、私の勇姿は全く見ていなかったのだとか(涙)。

でもうれしいことに、駅伝大会以来、職場で「○○ちゃん元気?」と子どもについて声をかけてもらえる機会が増えました。私も、会場にいた上司や同僚の家族の近況をよく聞くようになりました。普段の会話で、それぞれの家族構成や家庭の状況を把握はしていたものの、実際に顔を合わせることで、家族の輪郭がよりくっきりし、互いに思いやる気持ちが強くなった気がします。家族と職場がゆるやかにつながって、ちょっとハッピーな気分です。