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ワークスタイルに関するトレンド紹介記事
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時代とともに変化するオフィス環境。働き方に求められる多様性。
企業価値を高めるために必要な仕組みや、社会課題となっているテーマにフォーカスし、ご紹介します。

個人ワークスタイル

セルフ・コンパッション

ディズニー映画『アナと雪の女王』の主題歌がヒットしたのは数年前のこと。「ありの~ままの~自分になるの~」という歌詞に大勢の人が励まされたのは、裏を返せば、誰もが大なり小なり心のなかに自信のなさを抱えている証拠かも!?今回取り上げる「セルフ・コンパッション」は、ありのままの自分を受け入れ、幸福感を高めていく考え方。健康経営の観点から、多くの企業が注目しており、オフィスのちょっとした工夫で実践できる点も魅力です。

ステップアップへのモチベーションに。
甘えとは本質的に異なる"思いやり力"。

SNSが普及し、仕事もプライベートもキラキラとした他人の姿が共有される現代。自分には何かが足りない気がして、後ろめたさを抱えてしまいがちです。欠点をあげつらって自己批判を繰り返したり、あるいは、辛い気持ちにフタをして気づかないふりをしたり。完璧主義者や責任感のある人ほど、自分を追い込む傾向にあります。でもそれでは、状況を克服できるどころか、気持ちが沈んで、メンタルが不健康になってしまうリスクもあります。

人生において避けては通れない、挫折や失敗、他人と比較し感じる劣等感をあるがまま受け入れ、自分自身に対する優しい気持ちを高めていく。それが「セルフ・コンパッション」です。直訳すれば「自分(self)への、思いやり(compassion)」ということになります。「自分は悪くない」と思い込む"開き直り"や能力を過信する"うぬぼれ"、他者より優位にあるという"自尊心"などと混同されがちですが、これらとは全く別物です。セルフ・コンパッションは悲観的な状況に陥っても、自らのポジティブな側面にも光を当てることで、ステップアップへのモチベーションにつなげていく状態をさします。

孤独感や怒りの感情から解放され、幸せを願う!
セルフ・コンパッションを構成する3要素。

いわば"自分を思いやる力"、ともいえるセルフ・コンパッションを構成する要素として、3つの思考・態度が挙げられます。「自分への優しさ」「共通の人間性」「マインドフルネス」で、それぞれの対義語として位置づけられるのが、「自己批判」「孤独感」「(感情への)過剰同一化」です。順に説明していきましょう。 1つ目の「自分への優しさ」は、セルフ・コンパッションの核ともいえる要素です。例えば、顧客から取引中止の連絡を受けた際に、自分に能力がなかったからだと攻めるばかりではなく、「気が利くね」というお褒めの言葉をいただいたこともあったなど、良かった点にも目を向けることをさします。また、仕事でこんな失敗をするのは自分くらいだ、といった思い込みを止めることも大切です。それが2つ目の「共通の人間性」が持つ意味です。人は皆それぞれに欠点があり、失敗をするもの。そう考えれば気が楽になりますし、他者にも寛容でいられるのではないでしょうか。3つ目の「マインドフルネス」は、現実に起こっていることに意識を集中させ、出来事をあるがままに観察することをいいます。顧客との取引中止によってノルマを達成できなかった事実や、それに落ち込んでいる自分がいることなどを、肯定も否定もせずに見つめるのです。そうすれば、感情に支配されず、気持ちのバランスを取りやすくなるといわれています。

スティーブ・ジョブズも取り入れていた!?
瞑想が壁を乗り越える力に。

セルフ・コンパッションの構成要素の一つであるマインドフルネスという言葉は、「聞いたことがある」という方も多いのではないでしょうか。故スティーブ・ジョブズ氏やビル・ゲイツ氏などエグゼクティブたちが実践していたことから注目されるようになり、その具体的な実践方法である瞑想を研修に取り入れる企業も増えています。前述の通り、いま起こっている出来事をそのまま受け止めるマインドフルネスをベースに、自分への優しさを意識しつつ、他者も含め広く幸せを願う気持ちを高めていく「慈悲の瞑想」が、セルフ・コンパッション実践のポイントとなります。

この慈悲の瞑想には、いくつかのステップがあります。最初は、「私が幸せでありますように」と自分自身を慈しむ思いを心の中で繰り返します。その声がけによって生じる思考や感情は、ネガティブなものもポジティブなものも心に優しく留めつつ、自分への温かい声がけを続けるようにします。次に、他者への声がけを行います。まずはお世話になった人などの良い感情を持つ相手の活躍や健康を願うところから始め、好きでも嫌いでもない中立的な感情の相手を、最後にはライバルや苦手な上司も含む、すべての人を対象に、幸せを願うようにします。こうした瞑想に慣れると、大きな失敗や上司からの叱責、取引先からの理不尽な対応など、壁にぶつかった際にも、前向きに物事を捉えられるようになり、壁を乗り越える力となるといわれています。

攻めの健康経営としても注目。
予算をかけなくても、すぐに実践可能。

瞑想を実践しているアメリカのAppleでは、社内に瞑想ルームを完備しており、講習も実施しています。また、職務時間内の30分を瞑想に当てることを許可しているといいます。Googleでは、自主参加のプログラムとして瞑想を実施しており、7週間の期間中に1日数分の瞑想を実践するよう推奨しています。

日本でも健康経営の一環として、IT系企業のみならず、瞑想を導入する取り組みが広がりをみせています。丸井グループでは、「病気にならない」というディフェンスの健康ではなく、オフェンスの健康に取り組む一環として、マインドフルネスプログラムを導入し、店舗ごとに瞑想ルームを設置しています。特別な機材が必要なく、低予算で実施できる点が瞑想のメリット。コンセントレーションブースや仮眠室など、周囲から遮断された空間があれば、それらを活用することができます。また、会議室を早朝や夕方に瞑想ルームとして開放する、といった手法も考えられるでしょう。

ワーカーがセルフ・コンパッションを実践し、自分自身を大切にできるようになれば、個人の幸福感が高まり、ストレスへの耐性がつくだけでなく、周囲に対する思いやりが生まれ、職場全体の雰囲気もよくなるといわれています。まずは、影響力のあるリーダー層にセルフ・コンパッションの実践を促してみることが効果的かもしれません。

編集後記 ~ 瞑想ブームに乗って ~

セルフ・コンパッションの具体的な実践方法は「慈悲の瞑想」と聞いて、「少し怪しげだな」と感じられた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

でも、東洋の哲学や健康法への関心から欧米で瞑想やヨガが広がり、逆輸入されるかたちで、日本でもそれらへの関心が高まっています。また、効果に関する科学的な裏付けも多数報告されています。実際、私の周囲にも瞑想やヨガを体験したことのある人が増えています。

じっとしていることが苦手な私は、なんとなく敬遠してきましたが、本コラムをきっかけに、瞑想への興味がわいてきました。当社のオフィスがある「渋谷ソラスタ」には、ちょうどいいことにコンセントレーションブース・仮眠室があるので、今度そこで挑戦してみようかな、と企んでいます。