時代とともに変化するオフィス環境。働き方に求められる多様性。
企業価値を高めるために必要な仕組みや、社会課題となっているテーマにフォーカスし、ご紹介します。
2000年代に入り、「ダイバーシティ(多様性)」という言葉が広く社会に浸透しました。多くの企業や組織が「ダイバーシティ推進」を掲げ、人材の多様性を自社の成長に活かそうと努力しています。一方で、いまだにダイバーシティといえば女性の活躍推進、ワーク・ライフ・バランスの充実、CSR(企業の社会的責任)の一環としか捉えない日本企業が多いのも事実です。
当たり前のことですが、ダイバーシティとは、人種、国籍、宗教、性別、年齢などの区別に関係なく、一人ひとりが持つさまざまな違いを受け入れ、そして活かしていくことに他なりません。「女性の管理職を増やす」「外国人や障がい者を採用する」といった目標は、あくまで多様性を生み出すひとつの手段に過ぎません。
「ダイバーシティ・マネジメント」とは、こうした人材や働き方の多様性を、企業の競争優位の源泉としてマネジメント(経営管理)していくことを指します。昨今、海外投資家を中心に、ダイバーシティによるイノベーション創出や生産性向上が注目され、競争戦略としてのダイバーシティ・マネジメントの重要性が高まっています。経済産業省は「ダイバーシティ2.0」を掲げ、より中長期的に企業価値を生み出し続ける取り組みを行っている企業を選定・表彰しています(「新・ダイバーシティ経営企業100選」および「100選プライム」)。単に多様性のある状態をつくるだけでなく、その多様性を活かし切る「ダイーバシティ&インクルージョン」という考え方も広がりを見せています。
ダイバーシティ・マネジメントの取り組みは、ビジネスパーソンが一日の大半を過ごすオフィス空間にも大きく影響します。例えば、車椅子でそのまま利用できる多目的トイレの設置は、トランスジェンダーの人にも有効かもしれません。一方で、いつも同じ多目的トイレを利用することで、本来知られたくない性的マイノリティーであることが知られてしまうケースもあります。多目的トイレにLGBTを象徴する虹色のステッカーを貼ったことで、「差別を助長する」と当事者から大きな反発を受けた事例もあります。こうした問題は、全社でフリーアドレスを導入するなどして、社員がどのフロアでも働ける環境をつくり、特定のトイレばかり使用しないで済むようになれば自然と解消します。
本当の意味であらゆる社員が気兼ねなく働ける状態をつくるには、小手先の施策ではなく、オフィスにおけるワークスタイル自体の変革が必要になってきます。例えば、病気で胃を切除した人は少量ずつしか消化できないため、1回の食事を2回に分けて取ることがあります。他人の気配を気にせず、いつでもどこでも食事できる環境が、オフィスのどこかに必要かもしれません。毎日同じ時間に同じ場所でランチを食べるという習慣自体が、見方によってはダイバーシティ推進の妨げになっているのです。テレワークやサテライトオフィスなど場所を選ばない多様な働き方の実現は、一人ひとりの「違い」を受け入れる上でも重要です。
ここでは一端に触れただけですが、ダイバーシティ・マネジメントとオフィス空間に深い関係にあることが、ご理解いただけたでしょうか。「ダイバーシティ推進で気を使うことが増えた」という声も一部にはあるかもしれませんが、それ以上に、多様な価値観を持つ人材が集まり、それぞれの働き方で成果を出すことで、新しいアイデアが生まれやすくなり、組織に活気があふれるのもまた事実です。働き方の多様性は人材の多様性に繋がります。多様な価値観やナレッジを持った人材が組織に存在することがイノベーション創出の条件となり、このイノベーションの創出こそがこれからの時代を生き抜く上で欠かせない要素であることは既に多くの経営者から叫ばれていることです。ダイバーシティ・マネジメントを社会の潮流だけとして捉えて義務感で動くのではなく、ポジティブに捉え、オフィスという働く場の変革から実践していくことが求められているのかもしれません。