時代とともに変化するオフィス環境。働き方に求められる多様性。
企業価値を高めるために必要な仕組みや、社会課題となっているテーマにフォーカスし、ご紹介します。
人は本能的に自然とのつながりを求めるもの。そんな考え方を提唱したのが「バイオフィリア」という概念です。この概念に基づいて、日常生活に緑などを取り入れる「バイオフィリック・デザイン」をオフィスに採用する企業が増えています。身近に自然を感じられるワークスペースは、ワーカーにどのような効果をもたらすのでしょうか。自然が持つ不思議な力についてひも解きながら、オフィスへの取り入れ方を紹介します。
オフィスから出て、公園で日光を浴びる。都会の喧騒から離れて、緑生い茂る田舎道を散策する。太陽や木々、風に触れてリフレッシュした経験を、誰もが持っているのではないでしょうか。そうやって自然に癒やしの力を見出し、つながりを求めようとするのは現代人に限った話ではありません。18世紀に産業革命が起こった英国では、工業化の進む都市部から離れ、田園都市と呼ばれる緑豊かな環境で暮らす、新しい生活スタイルが脚光を浴びました。また、日本には野点(のだて)のように自然味あふれる遊びが愛されてきた歴史があります。
そうした人間と自然の切っても切れない関係にフォーカスしたのが、1980年代に生まれた「バイオフィリア(生命愛)」という概念です。この概念によって、人は生まれながらにして自然を求めるもの、つまり、人が健康に暮らすには自然とのつながりが不可欠という考え方が提唱されました。以来、さまざまな分野で人間と自然の関係に着目した調査が行われるようになり、例えば心理学の分野では、自然とのつながりには心理的な回復を高める効果があるといった報告がなされています。人が自然への回帰をめざすのは、単なるノスタルジーやロマンチシズムからではなく、科学的な根拠があるためだったのです。
こうした科学的な裏付けが後押しとなり、バイオフィリアの概念をベースにした「バイフィリック・デザイン」への関心が高まっています。自然を求めて都市を離れるのではなく、日常生活に緑を取り入れる手法で、オフィスに導入する企業が相次いでいます。
世界最大の通販サイトを運営する「アマゾン」では、2018年にオープンさせた広大な本社オフィスの内部に、4万本以上の木や植物を配置しました。ガラス張りの天井から降り注ぐ日光とうっそうとした緑で、オフィス内はさながらジャングルの様相を呈しています。また、韓国のグローバルメーカー「サムスン」は、米国に新設した拠点で植物をふんだんに取り入れた庭を2フロアごとに設置。周囲をぐるりと緑に囲まれたオフィス環境をつくりあげました。さらに国内でも、農機具メーカーの「ヤンマー」が「自然との共生」をコンセプトにした本社オフィスをオープンさせています。こちらでは、ガラス張りの養蜂場や水の流れるエントランスシステムなど、自然を模した景観をオフィスに創出しています。
では、オフィスにバイオフィリック・デザインを採用することでどのような効果が得られるのでしょうか。自然を取り入れたオフィスとそうでないオフィスを比較したさまざまな調査によって、主に3つの効果が指摘されています。
一つ目は「幸福度(Well-being)」です。観葉植物の配置などにより、視覚的に自然とのつながりが感じられる環境には、ストレスを軽減する効果があり、調査では幸福度が最大で15%上昇することが報告されています。二つ目の効果は「生産性(Productivity)」です。ストレスの軽減でワーカーの集中力が高まると考えられており、調査では生産性が6%ほど向上することが報告されています。三つ目の効果は「創造性(Creativity)」です。ほかの二つに比べるとこの効果が注目され始めたのはごく最近のことですが、調査では15%と最も大きなギャップがあったことが示されています。また別の調査では、コミュニケーションの促進やモチベーションの向上など、近年加速する働き方改革に直結するような効果が指摘されています。
働き方改革を後押ししてくれそうなバイオフィリック・デザインですが、オフィスをつくりかえるほどの大掛かりな取り組みでなくても、十分な効果が期待できます。エントランスや打ち合わせスペースに観葉植物を配置するだけでもいいですし、木材など天然の素材を使ったインテリアを導入するのも、バイオフィリック・デザインの一つとされています。既存のオフィス環境や人手、予算など各企業の状況に合わせて、さまざまな選択肢がある点もバイオフィリック・デザインの優れた側面といえるかもしれません。
バイオフィリック・デザインは、自社のワーカーだけでなく、来館者にもポジティブな影響を与えます。アイデア一つで、オフィスに集う人々のウェルネスに貢献できるこの取り組み。一度、検討してみてはいかがでしょうか。
今回紹介した「バイオフィリア」の概念とワークプレイスへの効果、いかがでしたでしょうか。
緑の多い環境で過ごしているときに「なんとなく落ち着く」「気分転換になる」など、ポジティブな変化を感じたことのある方は多いと思います。科学的にその効果が実証されることで、今後さまざまな分野に活用され、より効果的な緑の取り入れ方が考案されるといいですね。
東急不動産では、働く人の健康、働く人の心、働く人のひらめきに影響を与える緑の力に着目し、緑がもたらすオフィスへの効果を科学的に検証しています。下記WEBサイトにて検証結果や事例をアップデートしていく予定ですので、ぜひご覧ください。
Green Work Style 日本のはたらくを、緑でデザインする。
https://www.tokyu-land.co.jp/urban/bldg/gws/