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特集記事

かつてない環境変化から生まれる、新しい世代感覚(1)
谷崎 テトラ

グレートリセットの時代

2021年1月開催の世界経済フォーラム年次総会「ダボス会議」のテーマが「グレートリセット」になることが今年6月3日に発表されました。世界経済フォーラムは、経済、政治、学究、その他の社会におけるリーダーたちが連携することにより、世界、地域、産業の課題を形成し、世界情勢の改善に取り組むことを目的とした国際機関で1971年に経済学者クラウス・シュワブ氏により設立され、スイスのコロニーに本部を置く非営利財団です。

その年次総会「ダボス会議」は、世界の選ばれた知識人やジャーナリスト、多国籍企業経営者や国家元首クラス、大使、国際機関の長などのトップリーダーが一堂に会し、健康や環境等を含めた世界が直面する重大な問題について議論する場となっています。その動向は世界に強い影響力があり、常に各界から注視され、これまでに日本からは首相や日銀総裁、著名な経済学者、ノーベル賞受賞者などが参加。50周年を迎えた2020年はスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさん(17歳)が演説したことでも話題になりました。

次回2021年のテーマとなる「グレートリセット」とは、公正で持続可能かつレジリエンス (適応、回復する力)のある未来のために、経済・社会システムの基盤を緊急に構築するというコミットメントのことです。1929年~1930年代の大恐慌はグレート・ディプレッション(Great Depression)、2008年~2010年代の世界金融危機はグレート・リセッション(Great Recession)とよばれています。現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴う世界経済危機はグレート・ロックダウン(Great Lockdown)ともいわれ始め、ダボス会議はこれからの未来のためにグレート・リセット(Great Reset)を次のテーマに掲げると決めました。

アントニオ・グテーレス国連事務総長は、「グレート・リセットは、我々が直面している人類の悲劇は、我々に警鐘を鳴らしていることを認識させてくれるでしょう。私たちは、パンデミックや気候変動、他の多くの地球規模の変化に直面しても、より平等で包括的かつ持続可能な経済と社会を構築しなければなりません」と述べています。

コロナ禍による「資本主義」の限界と今後の変革の芽吹き

グレートリセット後の社会は、受容と供給による自由な経済活動であるこれまでの自由市場を基盤にしながら、社会福祉サービスも充実させた『社会的市場経済(Social market economy)』へシフトするといわれています。そしてそれは、人が本来あるべき人間らしいくらしを長期的にしていくためには、必要不可欠な変化であるというのです。

新型コロナ以前から、これまでの資本主義のあり方は限界を指摘されており、経済学者トマ・ピケティは「21世紀の資本」(2013年)において、「所得分配の格差は拡大しており、今後もその傾向は続くだろう」という研究成果を発表しました。 それに追い討ちをかけるように、感染症によるグローバル・ヘルスの危機が長年にわたる経済と社会のひずみを露呈させました。人間らしく、かつ有意義な雇用創出が緊急課題となるような社会的危機をも生んだことを踏まえ、世界経済フォーラムのクラウス・シュワブ会長はこう語ります。

「コロナ禍による失業などの経済危機を乗り越えようと(各国政府は)債務を増やしている。これはいずれ未来の世代が払うツケであって、ある意味では彼らへの裏切り行為だ。次の世代への責任を重視した社会を模索し、弱者を支える世界を構築する必要がある。気候変動など危機への対応力や、新技術の発展に向けた規制の枠組みも考えないといけない」
(日本経済新聞 2020年6月3日)

つまり、我々がいま直面している危機や厄災、困難を乗り越えていくには、格差や犠牲を前提としたこれまでの古い資本主義システムで対応するのではなく、人間の尊厳を中心に据え、自然と調和した新しいモデルへと世界を進化させていく必要があるといっているのです。

資本主義とは、私有財産を持つ資本家が、商品を生産して社会に供給するしくみのことです。そういったこれまでの資本主義から、SDGsを中心に多様な社会益を見据えた「ステークホルダー資本主義」への転換を迫られていると考えられています。

新技術や新領域への投資の予測

気候変動やパンデミックなどで高まる社会全体のリスクに対し、遠隔教育など ICT等を活用したリモート・サービスへのニーズの高さが改めて浮き彫りにされました。経済学者 ジャック・アタリ氏は以下のように述べています。

「新型コロナの対策ではテクノロジーが力を持っている。問題はテクノロジーを全体主義の道具とするか、利他的かつ他者と共感する手段とすべきかだ。」
(仏経済学者 ジャック・アタリ氏 日本経済新聞、2020/4/9)

様々なステークホルダーが等しく利益を受ける共有的価値への移行。そのための新技術や新領域への投資が期待され、それにともない世界の都市は「スマートシティ」というデジタル変換を加速させています。
グレートリセット後の新たな社会に向けて行われる「イノベーションの創出」。創造的活動を通じて新たな価値を生み出し、科学的な発見や発明、新しい商品や新しい仕事の開発とともに、これが普及されることにより、新たなビジネスフィールドが創造されます。グレートリセットとは経済社会の大きな変化を創出することなのです。

谷崎テトラ(たにざき てとら)

京都芸術大学客員教授/放送作家/メディアプロデューサー/ワールドシフトネットワークジャパン代表理事/
アースデイ東京ファウンダー
1964年、静岡生まれ。環境・平和・アートをテーマにしたメディアの企画構成・プロデュースを行う。価値観の転換(パラダイムシフト)や、持続可能社会の実現(ワールドシフト)の発信者&アーティストとして活動は多岐に渡る。アースデイ東京などの環境保護アクションの立ち上げや、国連 地球サミット(RIO+20)など国際会議のNGO参加、SDGs、ピースデー(国際平和デー)などへの社会提言・メディア発信に関わるなど、持続可能な社会システムに関して深い知見と実践の経験を持つ。世界のエココミュニティを取材し、エコビレッジの共同体デザイン、地域通貨、共同体教育、パーマカルチャー(持続可能な農的文化)などの事例研究から、カルチュアルクリエイティブス(文化創造者)、先住民から学ぶディープエコロジーの思想まで、未来のデザインのための智恵を伝え、それぞれの地域や現場に生かす仕事をしている。メディアの企画構成としては「素敵な宇宙船地球号」(テレビ朝日)、「アースラジオ」(INTER FM)、「里山資本主義CAFE」(NHK World)、環境省「森里川海」映像など多数。YOUTUBE「テトラノオト」で持続可能性や創造性についての動画BLOGをほぼ毎日更新している。

HP: http://www.kanatamusic.com/tetra/
YOUTUBE:https://www.youtube.com/c/テトラノオト