前回、働き方変革とは、個人個人の働き方に対する思いと組織に課せられたミッションをいかに組み合わせて個人と組織の生産性や価値創造力を最大化していくか、という取り組みであるというお話しをしました。そして、そこには経営陣の意識改革がカギであるとしましたが、10月7日の日経新聞に興味深い調査記事が載っていました。
記事はテレワークに対する評価が分かれているという内容で、多様な働き方の選択肢の一つとして、今後もテレワークを積極的に推進する日立製作所のような会社がある一方、コミュニケーション不足の懸念から社員に出社を促す伊藤忠商事のような会社もあるなど、まさに経営陣の考え方によって、働き方に対する会社の方針が180度違ってきているという事例の紹介でした。
また、テレワークによる生産性変化の調査結果では、「生産性が上がった」という回答が31.2%ある一方、「生産性が下がった」という声も26.7%あり、評価が分かれているとしています。
「生産性が上がった」理由としては、
といった理由が上位を占め、「生産性が下がった」理由としては、
といった理由となっています。
こうした結果から言えることは、テレワークにもオフィスワークにもそれぞれメリット、デメリットがあって、どちらか一方に偏るのではなく、両方のメリットを最大限に活かす工夫が必要だということです。
例えば、個人で集中して作業する場合は、自身がパフォーマンスを一番発揮できる場所で自由に働ける仕組みにする一方で、メンバーとのコミュニケーション、ディスカッションの中から新たな価値を創造する場合には、それを効果的に実施できるよう工夫されたオフィス空間に集えるような、仕事の目的やシーンに応じて最適な働き方と場所を選択できることが重要になってくると思います。
オフィスに関する、ある調査によると「オフィスの見直しを実施した」または「検討している」と答えた企業の実施(検討)内容は「専有面積の縮小」が最も多く、その他「コワーキングスペースやレンタルオフィスの契約」「拠点の分散化」が続いています。
いずれもオフィスのコスト削減や分散化といった視点での見直し内容で、オフィスそのものの役割の見直しまで踏み込んだものは見られません。
今後のオフィス改革は、従来のような単なるファシリティとしての総務の仕事という位置づけから、働き方変革と一体となった経営戦略そのもの、という考え方に発想を転換する必要があると思います。コロナ禍でオフィスの見直しを検討している会社にとっては、オフィスの役割そのものを考え直す絶好の機会と言え、オフィスの果たすべき役割や求められる機能を根本的に見直し再設計することが重要ではないでしょうか。
オフィスの新しい役割とは何かを考えるにあたって、リモート環境ではどうしてもやりにくい、成果が出にくいといったデメリットをオフィスでどうカバーするか。その視点で考えるとおのずと解は見えてくると思います。
リモートワークは、個人作業でアウトプットをしたい時には、極めて有効な働き方といえます。途中で誰にも邪魔されることなく、集中して仕事をすることができるからです。
一方、誰かに相談したり、チームでブレーンストーミングして新たな価値を生み出したり、リラックスした雑談の中から仕事のヒントを得たり、といったことはリモートワークでは中々できないことです。
こうしたリモートワークに不向きなシーンを実現することがオフィスに求められる重要な役割で、それをより効果的に促進するためにオフィスはどうあるべきか徹底的に考えることが必要となります。
つまり、これからのオフィスは、単に個々人が仕事をする場所としではなく、リモート環境では実現し得ない多様なコミュニケーションから生み出される、新たな気づきや学びを促進する空間としての役割が求められます。
具体的には、これまでのような個人の執務机が並んでいるだけの固定席の代わりに、個人的な事由で自宅では仕事の生産性が上がらない人のための集中執務スペース、2-3人でちょっとした意見交換のできるオープンなブース、雑談できるスタンディングスペースの確保、複数のPC画面を同時投影しながらディスカッション可能な多画面設置会議室、同じ部署のメンバーが集まってコミュニケーションをとったり、ナレッジシェアイベントやワークショップを可能にしたオープンな多目的スペース、Web会議室等といった、リモート環境では実現しにくい様々なコミュニケーションをサポートし、共創を促進するための新たな空間こそがオフィスの新たな役割と言えるのではないでしょうか。
さて、次回は日常的に人と接する時間が減る環境で上司・部下、部門間、仲間とのコミュニケーションのあり方とはどうあるべきか。多様な働き方を支えるコミュニケーションの重要性について考えてみたいと思います。
2005年ソフトバンクテレコム 執行役員人事本部長として、ソフトバンクの通信3社の人事制度統合を進めるなど、事業会社の人事責任者として多くの改革を推進した後、2008年三菱商事グループのビジネスコンサルタント会社、シグマクシスの立ち上げにパートナー兼人事ダイレクターとして参画。人事コンサルチームの統括し、数多くの企業を人事プロジェクトで支援する。
その後、2015年にクックパッド株式会社執行役(人事担当)として、再度事業会社の経営に参画し、以降2017年株式会社オウチーノ取締役、2018年株式会社くふうカンパニー取締役とIT関連企業の経営に関わる一方、2016年に自身の人事コンサルティング会社「HCMラボ」を設立し、現在は、くふうカンパニー顧問など、多くの企業のアドバイザーとして人事領域を支援している。